Let’s date !
その2









千尋はリンの助言で  ゛気をつけろ、いつもおまえを見ている ゛ という一見、危う い言葉を思い出した。

ばっと後ろを振り返る。

「ひゃ!」

千尋は短く悲鳴を上げた。

そして麗しき美少年はその場を離れようとする。

「ちょ、ちょっと待って!(ホントにいると思わなかった)」

千尋は行く手を阻むと少年は、足を止めた。

「千尋は感が良いから困りものだね」

「ハク!アナタ、そういう問題ですか!」

ハクはふふっと笑った。

「デートと聞いたから、何してるかと思えば海釣り?普通デートでは海釣りはしないと思うよ、千尋」


そう千尋と坊は海釣りを楽しんでいたのだ。

千尋は上手いのだが、坊といえば魚1つ捕まらず膨れっ面を浮かべており、ハクが来るとおもしろい筈もなく一層、頬を膨らました。

千尋は瞳を大きく開いて身を乗り出して尋ねる。

「知ってたの?」

「ああ、すべて知ってるさ、湯婆婆に頼んで坊がデートさせたって。だから本当か確かめ に行ったら物の抜け殻」

激しく怒っている

怒ってますと言わんばかりの顔に、千尋は少し困ったように微笑する。

どうやら触れてはいけないものに触れてしまったのだと千尋はその時、直感した。

釣り竿の先がぴくぴくと揺れ始める。

「ん、魚真あり!」

千尋は竿をえいっとばかりに引っ張る。

引っ張った先から何か視界に飛び込んでくるのが分かった。

勢い良く飛び跳ねる大きな魚だ


「千、危ないゾ!」

「千尋!」

2人は同時に叫んで、ハクと坊は千尋の前に飛び出そうとした。


千尋は、ひゅっと風を切る音をさせ、身をすくめる。

これは油屋で鍛えた反射神経であろう



バチン!

しかし、音が凄まじく響き渡った。

ハクは糸も簡単に避けたが、坊は魚を避けられず、顔にそのまま激突してその場に倒れてしまったらしい。



「千尋、大丈夫か?」

「わたしは大丈夫だけど、坊が」

ハクの問いに答えると、哀れそうに千尋は坊を見つめた。

すると、ハクは千尋に、にこりと微笑んで見せた。

「すぐ、起こさせて見せよう」

ハクはひょいっと坊を海の中に落とした。

「えッ!!ちょっとハク!?」

ハクはにこにこと笑みを浮かべたまま、『大丈夫』と言う。

何が大丈夫なの!
すると、ぷかぷかと坊は浮いていた。

脂肪のおかげであろう

「えっ」
千尋は水死してないかと心配したが、少し呆気にとられた。




「この寒い時に、心臓麻痺でも起こしたらどうするんだ!」

坊の抗議にハクは満面の笑みを浮かべる。

この時期に海に入ったら寒いことは当たり前ね・・・

千尋は2人の睨み合いの行方をじっと見つめていた。

「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴落とされるゾ!」

坊はふ〜、ふ〜と息を切らして顔を真っ赤にさせて大声を上げる。

「坊は古いこと言うね。ナンセンスだよ?」

ナンセンスって言葉も古いと思う・・・
千尋はそう内心思いつつ、2人の喧嘩を見守った。

『あとはリンにどう説明しようか・・・』
千尋の頭の中には、まだ疑問が残されているのだ。

ついには坊とハクの取っ組み合い。

体重とリーチの差では明らかに坊のが上だ。


千尋は悩ましげに、リンについて悩んだ末に、現実に引き戻された。


「千尋!そなたはどっちが好きなんだ!!?」

2人は同時に高らかな声で叫んだ。


「わたしの好きな物はね
 魚の塩焼きに茶碗蒸 、それからおせんべが好き」

千尋はあっけらかんとして答えた。


ハクと坊は

がっくり

肩を落とした。

「食べ物に勝てなかった」

2人は小さく口の中で呟く。


しかし、千尋にはさっぱり、訳が分からなかった。


夕日が3人を照らす。
海は赤い色に染まっていた。

「あぁ、カモメさんだ!」

千尋は無邪気に微笑んでいるのだが、反比例してハクと坊は依然として浮かない顔をしていた。

「デート、楽しかったよ。ありがとう、良い休暇になったわ

 2人とも大好きだよ?」

千尋は2人に花が咲きほころぶように微笑んで見せた。



2人も、さっとすばやく微笑んだ。

そして、やっぱり2人は睨み合い

千尋争いは、まだ始まったばかりです


「ハク様。お時間有りますか?」

油屋の橋の袂の前でふと、千尋は立ち止まる。

「なにか?」

ハクは、首を傾げて千尋を見た。

千尋はふふっと微笑んで、ハクの腕を引っ張る。

「ちょ、ちょっと待ちなさい!千尋っ!!」

ハクは千尋に引っ張られる方向に駆け出した。

立ち止まった場所はボイラー室の階段。

千尋はくるりとハクの方に振り向く。

「どうしてハク様はデートに首を突っ込んだのですか?」

千尋の問いに、ハクは頬を紅潮させて俯いて誤魔化す。

そんなハクに千尋は言う。

「あのね、今度デートしよっか。2人で」

千尋はハクの顔を覗き込んだ。

「わたしだと、不満?」

ハクはぶんぶんと首を振る。

「大歓迎だよ、千尋。わたし、千尋に言わなければならないことがある」

千尋は少しばかり瞳を見開いた。

「わたし、その上下関係のせいで、必要以上に千尋を叱ってたみたいなんだ。面目ない」

ハクは瞳を軽く伏せて、頭を軽く下げる。

その時、ハクに異変が感じられた。

自分の唇に、柔らかく暖かいものが感じられ、

そして、それは離された。

「ハク。坊と仲良さそうだったけど、他の人としちゃダメよ」

ハクは接吻のせいなのかもしれない、『坊』という言葉が頭にカチンときたのか頬を赤くさせる。

「なぜ、わたしが言われなければ、ならないの?」

ハクは坊と仲が良いと見える千尋もオメデタイと思うのだが、その事は取り合えず置いておいた。

2人は顔を見合わせて笑いあう。

「ところで千尋、そなたとのデートどこに行きたい?」

「うん、今度も釣りに行こう!」

まだ懲りてないのだ。今度もどうやらハクと坊の決戦が繰り広げられそうです。



END


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