ハクとハクさま…
作:しずく☆えり様








油屋は今日も大忙し。
朝の1番客が来る前にと油屋の従業員達はせっせと準備をする。

いつもの通りハクは朝、見回りをした。
ハクが通るのを皆は恐れている。
あの冷たい眼差しで見つめられると、ドキリとして、背筋が凍る思いがした。
朝、油屋は異様な雰囲気に包まれる。

大湯では千とリンが仕事をしていた。
「リンさん、お風呂磨き終わったよ」
リンは微笑んで言う。
「じゃあ、オレ朝飯取ってくるから♪」
千尋は伸びをして滝のように流れる湯を見つめる。
すると聞きなれた少年の声がした。
「千、そこが終わったら他を手伝え」
千尋はハクに近づいていく。
ハクはじりっと後ずさりをした。
「ダメよ、ハク…わたしそういう顔をしていると面白がるんだから…」
ハクは悪戯に微笑む千尋を見る。
千尋はにっこり微笑んで、
ハクの眉間にしわが寄っていたので指で押す。
そして顔にかかっている、髪をかきあげた。
「もったいないな…魅力がくすんでしまいますよ…」
ハクは言う。
「余計なお世話だ」

「千、仕事に戻れ!」
「はい」
湯を止めながらハクに言う。
「ハクさま…少しお待ちになって頂けますか?」
ハクはぷいっと横を向いて去って行く。
…きっとわたしはハクに嫌われて行くんだわ…
リンが戻ってくる。
「千、飯持ってきたぞ…おまえさっきハクとしゃべっていたのか?」
千尋は頷こうと思ったが首を横に振る。
「そうか…」
リンは続けて言った。
「おまえ知ってる?夜、油屋の橋の上で見る星はいいぞ…今は寒いけど今日は流星群が来る
らしいんだ…まあその頃は眠っちまってるだろうけどな…」
千尋は興味深く聞く。
しばらくすると油屋の1日は幕を開ける。

最近千尋は油屋の鏡ともなっていた。
嫌がることも進んで仕事をやる。
千尋の一生懸命な姿に感銘を受ける者は多かった。

お客さまが来る。
ハクは通りすがるお客の声を耳にした。
「さっきここの看板娘の千を口説いておった神がいたぞ…いつ見てもあの子は容姿ともに
心が洗われるような子じゃ…」
ハクの耳がぴくりと動く。
「お客様…大変失礼ですが、千はどこにいるか存じませんか?」
ハクの喉からは自然とそう発していた。
ハクの声に振り向く。
「千なら湯殿の入り口に…」
言いかけている途中にハクはぺこりと頭を下げると神の横を矢の様に駆けていく。

「お客さま、今なんと?」
千尋は尋ねる。
「そなたを嫁にしたい」
さらりと言う神に千尋はなんと言って良いのか分からない。
そこに横に入ってくるハクがいた。
相手をぎろりと睨み上げて言う。
「千に何か?」
神は負けじと言い返す。
「千を嫁にしたいと言ったまでだ」
ハクは言った。
「この者にはすでに先約が御座いますので…それに貴方さまに差し上げるのでは少し勿体
無いかと…」
千尋はハクを見る。
…コハク?…
神は言う。
「勿体無い?千はわたしに勿体無いと?確かにな…確かに、わたしはどうかしていたかもし
れないな」
あざ笑う神にハクは頭に血が上る。
「誰がそなたに千尋は勿体無いと?わたしはそなたに千尋は勿体無いと言っているのです」
ハクは続けて言う。
「そなたのことはどうでもいいのだが…千尋を侮辱する者はわたしが許さない!…」
神は舌打ちすると去っていった。
千尋は言う。
「ハク…ハクさま、ありがとう御座います」
ハクは千尋に何も言わずしらんぷりして仕事に向かう。
…やっぱり、わたしのことなんとも思ってないんだわ…
…もう頭にきた…
「ハクさま…仕事中失礼ですが、わたしのこと、どうお思いになっているのですか?」
ハクは胸をドキンとさせる。
「千、仕事に戻れ」
千尋は言った。
「ほら、やっぱり!いつもそうやって逃げちゃうんだ!もう知らない!!」
ハクは溜息をつくと仕事に戻る。

夜、千尋はぐっすり眠っていた。
すると肩を揺す振られる。
千尋は目をうつろに開けると言う。
「リンさん?」
千尋の目は徐々にはっきりして視野にいるのはリンではないことが分かった。
「コ…ハクさま…」
千尋の胸は高鳴りがした。
やはり真夜中に異性がいるという為だろうか…
「千尋…」
ふっと笑みをこぼすと続けて言う。
「ハクさまじゃなくていいよ…コハクでもハクでも…千尋、星を見よう?服を着て今から出
てこられる?」
千尋はこくりと頷いた。

外は静かで星がたびたび流れていく。
「綺麗…」
思わず千尋は星に見惚れた。
「千尋…今日はすまなかった…わたしがどうかしてた」
千尋は首を横に振る。
ハクは続けた。
「人間界ではあまり見られないね…ここは人間界と違って異常気象が多いから、よく流れる
のだよ…千尋…」
ハクのおしゃべりは止められた。
?????
ハクは一瞬なにが起こったか分からなかったがしだいに状況がつかめてきた。
しばらくして千尋は唇をハクのそれから離す。
「お礼だよ♪」
ハクは尋ねる。
「///千尋…なんで急に?」
千尋は微笑んだ。
「お礼」
…きっとコハクは知らないだろうな、リンさんが「おまえ知ってる?夜、油屋の橋の上で見
る星はいいぞ…今は寒いけど今日は流星群が来るらしいんだ…まあその頃は眠っちまって
るだろうけどな…ここは告白すると油屋で唯一実る場所らしいぞ」
って続けて言ってたけれど…

…千尋は本当に分かっているのかな?口づけの意味…まあいいか…

二人は空を見上げました。
空は流れ星が流れる。
千尋とハクはお願いごとをする。

…ハクとずっと一緒にいられますように…
…千尋とずっと一緒にいられますように…
と…
今夜は長い夜になりそうです。





END

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あとがき
本当のハクさまを書けて良かったです。
今までほがらかなハクさまって感じでしたが…
むっつりハクさまが書けて本当に良かったvv(ついでに何とか千尋攻めだったし)
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しずく」のしずく☆えり様から頂きました!! ウィルスに感染されたそうで‥(汗)そのお詫びみたいな形で頂いたのですが、こんなに素晴らしいの頂いちゃっていいんでしょうかっ!(≧▽≦) これからがとても楽しみな二人です‥‥v





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